以前のエントリ「書籍レビュー:日本企業がシリコンバレーのスピードを身につけるには」に引き続き、de:code 2017で購入したロッシェル・カップさんの著書です。
やはり表紙を踊るこの文言に尽きると思います。
「新しい働き方を世界中から学ぼう」
その通り、この本には日本の異様な部分や、海外での普通の働き方、そして改善方法が国内外のデータを基に示されています。TwitterやFacebookで発言した通り、ロッシェル・カップさんの書籍は「現実」「データ」「改善案」「実例」のパターンで書かれており、この本の前には異論を唱えるどころか、ぐぅの音も出ないのが本音です。
「でもね・・・」で始まる反論を言いたくなる気持ちはすごくわかりますし、実際自分も現実を目の前にしてそう思う事も多々ありますが、本書のそれらを真摯に受け止めたことで、自身の仕事に対する視野はとても広がりましたし、現実に仕事にフィードバックされていっています。

「日本企業がシリコンバレーのスピードを身につけるには」はちょうど職場のマネージャに貸し出していますが(書籍レビューエントリを待っていますよ!>レキサスKマネージャ・笑)、この本もこのレビューエントリをリリースした暁には、職場のマイ本棚に置いてみようと思います。
この本を読むにあたって、気になるところを写真の通り付箋を貼っていって読みました。ロッシェルさんの本は背景のデータを含めて読み取ろうとすると、1冊(約300ページ)を読むのに1か月は掛かるでしょう。それだけ可能な限りデータの出典が記されている事からも、これらの書籍を基にプレゼンテーションがやりやすい事も挙げられます。(言い換えると、先にも書いた通り反論の余地がありません。)

日本企業の社員は、なぜこんなにもモチベーションが低いのか?
Rochelle Kopp
クロスメディア・パブリッシング(インプレス)
2015-02-18



今回のブログエントリは、主に付箋でマークした部分(=自分がとても気になった部分)を中心にご紹介したいと思います。

■第1章は苦渋の章

第1章「日本人の働き方」は、 熟読すればするほどいかに今の日本人(≒自身のエンジニア人生=約17年)が、理にかなった成長が出来ていなかったか、環境的に満たされていなかったかを痛感させられます。「環境要因にするのはどうか…」という意見もあるかもしれませんが、本書を通しで読んだ結果、いかに今までの日本の会社が意固地であるか、それを知らなかったかという見方を広げることができ(日本人なのに)無知を自覚する事ができます。現に、この章では日本の高度成長期にまで遡って記されており、自分たちポスト団塊ジュニア世代(団塊世代から2世代後)としては当時の事を知らず、なぜ今の日本の人事制度がそうなっているかを初めて知る事となりました。

■第2章:社員のモチベーションとパフォーマンスをいかに高めるか

ここでは、組織の中でモチベーションを保っている社員(ステークホルダ)のロールモデルや考え方が、それぞれの切り口で語られています。あらためて自身の立ち位置を考えるきっかけとなり、今の自身の立ち位置を再認識する章です。
ここでは、Netflixの求人用スライド(Netflix Culture)をマークしました。


このようなスライドを公開している企業がある事を初めて知り、先日ある大学のゼミルームで4年生の学生が企業パンフレットを片手に履歴書に志望動機を書いている(しかも手書きで!!!)所を見ているだけに、ある種のショックを覚えました。この124スライドにはNetflixのカルチャー(収益源・考え方 etc…)が凝縮されており、このような資料を目にする事にとても衝撃的でした。仮に自分が会社を起こすのであれば、おそらくNetflixを参考にこのような資料を公開するでしょう。それは求職者に対して嘘偽りない企業文化を提供すると同時に、自社の自律的な運営にもつながります。

■第5章:日本におけるマネージメントスキルとリーダーシップの現状

まず、この章をロッシェルさんが綿密にヒヤリング・調査し、書籍として記してらっしゃる事に、とても尊敬を抱いています。まず自分たちのスキルではこのような事は思いつくこともありませんでしたし、仮に出来たとしても「もやもやとした違和感」としてしか捉える事が出来ず、それを文章に纏めてアウトプットする事は困難だったでしょう。彼女は僕たち日本人のサラリーマンには出来ないアウトプットを出してくれました。
この章を読むことによって、たとえば職務記述書が何のために必要で、それがどう活かされるのか初めて知りました。(過去に在籍した企業で、それを記述しようとした企業はありましたが、当時はその理由を知りませんでした。)
ここで自分が付箋でマークしたのは、P.228「社員の意識を測定する」をマークしました。実は過去に在籍した企業で、KPT(Keep-Problem-Tryによる意識調査)程度の調査には答えていましたが、これはとても骨が折れるものでした。また、あらためて考えると、その調査も特定の企業の文化に準拠したものではあったものの、要点を突いたものでは無かったのかもしれません。
この章では、意識調査や360度レビューにおける要点が示されています。このように要点を示されることはとても良いインプットであり、逆に言えばこれをベースに自身の上司や環境を評価してフィードバックしていく事ができます。
マークした部分の意識調査内容を引用すると、以下の通りです。とても日本の企業に大切な事なので、(ロッシェルさんごめんなさい!)あえて引用させていただきます。
  • 上司から常に尊敬した扱いをうけている
  • 仕事をきちんと処理する為に必要な資源がある
  • 仕事に見合った給与を受け取っている
  • 組織の使命と目標に関して理解している
  • 組織の上層リーダーを信頼している
  • 組織内において仕事面での成長の機会がある
  • 上司は仕事と生活のバランスを取ることの重要性を理解している
  • 上司から建設的なフィードバックを受け取っている/
  • 組織内で品質に関する非常に高い標準を維持している

ほとんどの日本の企業の社員には、とても耳が痛い内容だと思います。実際、シアトルで働く知り合いのプログラマと、日本の平均的なプログラマの間には、約3~5倍の給与格差があります。そのくらい、日本は後れをとっていることを認めざるを得ません。

■女性や高齢者、非日本人といったマイノリティへの配慮、および多様性の享受

おそらく、この表題でも足りないと思います。(マイノリティという表現をする事をお許しください…今これに対する的確な日本語がまだ無いのです。)以前自分のブログエントリを執筆した際に、女性エンジニアに対してとても軽率なアウトプットをしてしまったが為にお叱りを頂いた事があるのですが、今の日本のエンジニア社会は「男性エンジニア」をロールモデルとした制度を展開しており、女性や高齢者といった「働きたいのに会社と働き方が合わない」といった方に配慮できていない事を自覚しました。実際、自分の身の回りのほとんどが「未婚の男性エンジニア」ばかりであり、そこにロールモデルを設定せざる負えない人事というのも理解が出来ます。
しかし、日本でも少数ではありますが育児中などでリモートワークを希望する女性エンジニアを雇う企業も出てきており、例えば身近ではアバタス株式会社様などでは実際にリモートワークの主婦層の女性の雇用を進めていると聞いております。(実際に導入しようとする各社においては、コスト面での比較だけではなく、スキル面で不足が無い事も考慮に入れて頂きたいです。例えば一般の男性エンジニアの1.5倍のパフォーマンスを出すエンジニアも中には居らっしゃいます。)
併せて、この章を熟読することで、マイノリティの目線(基準)を理解する事ができます。以前は「現役の男性エンジニア寄りのマイノリティから聴取するしか無かった」情報がここには書かれており、これを理解するだけで各々の評価が大幅に変わると思っています。
また併せて、自分は過去に在籍したある企業で、体調が伴わず時短勤務を行った事があります。しかしそこでは通常勤務と同等のアウトプットを出しているにも関わらず、時給換算であった為、支給額が減ってしまった事があります。(結局、疲労に伴う体調不良により、その企業は退職しました。)実際はアウトプットの質が同一であるにも関わらず、多様性の享受が出来ずチャンスを逃している日本企業は、とても多いと感じています。
もしこの章を受け入れられないのであれば、それは転職を考えず従来の企業に留まった方が良いのかもしれません。それくらい、重い章だと思います。

■P.271 ケーススタディ1

ここでは上記マイノリティエンジニアに対し、どのようにチャンスを与えて評価すべきか、実例を伴って記されています。いくつか気になったポイントはありましたが、一番はステークホルダーに対しスポンサーという存在を定義された事です。スポンサー(提供者)は、ステークホルダーに対してチャンスを提供し、メリット(アウトプット)を享受する立場です。ここでは企業に対する出資者ではなく、上層リーダー層がヒットすると感じました。
この考え方はまだ日本の人事には無く、とても新鮮に感じ、また併せて自身のアウトプットに直接繋がる(=今の組織でのバイネームでスポンサーを言える)事と感じました。

■キャリアの目標を自分で立てる

日本のエンジニアが遠く及ばないのが、このポイントかも知れません。ポスト団塊ジュニアのエンジニア(≒自分)において、それは選択できる事柄ではなく、選択できない事柄だったからです。
しかし、今や30代後半となった今は違います。自分で行く先を決める事が自分のキャリアに繋がり、そして(日本では)誤ることの出来ないキャリア選択となります。
  • 自分は何をすることが好きか?
  • 自分は何に情熱を感じるか?
  • 自分は仕事の何に意味と目的を見出すか?
  • 自分は何が得意か?

上記は本書P.284からの引用です。もしこの自問自答に答えられないのであれば、それは自身のエンジニアとしての人生の意義を見出せていないのかも知れません。
自分は、まだ明言し切れませんが、少しずつ見出しつつあります。今自分は35歳なのですが、エンジニアとして最新の技術に対し手が動くという事は少なくなり、むしろアーキテクトとしてプロジェクトの骨格を形成する事を得意としつつあります。言い換えれば、あらゆるスキルの概要を習得する事により、あらゆるスキルのエンジニア同士のブリッジ(=連絡調整役)を担うことが出来るようになってきました。
併せて、本書にはスキルに対するマップが提示されているので、参考にしてみてください。

■日本人は謙遜するばかりである

「いえいえ、滅相もございません…。」このような返しは日本人の美徳であり、精神にも近いでしょう。誉め言葉に対し、「私はあなた程ではありません。」このような返しは、うんざりする程社交辞令として聴いていますし、自身も使っていました。
しかし、それは今日この記事を以て止めるべきです。「ありがとうございます、私たちはそれを嬉しく思います。」こう言いましょう。実際、これを繰り返す(=自身の成果を自身で認める)だけで、自分の感情(=Identity≒自尊心)は大きく変わります。
これは、自分たちの長所を認める、ただそれだけの事です。

■最後に

自分自身、ジョブホッパーとして17年間で10社以上転職をしていますが、1つだけ見失っていない事があります。「常に自分に出来る事は何かしらある。失敗してもいい、それを突き通す事。」それだけです。思い返せば、転職する時は、その環境に限界を感じたか、自身の体調に限界を感じた時でした。この1点を本書に認められたからこそ、自分はこの本を読んで良かったと感じます。
最後に、書籍の大事な部分を引用という形で公開する事をお許しください。しかし、今の日本のエンジニアにとても大切な部分を引用する事が、自身の役目と感じました。
この1冊に出会った事ですら、Microsoft de:code 2017に参加してとても良かった事の1つです。著者のロッシェル・カップさんに、最大限の敬意を贈りたいと思います。